十三篇から成る兵法書

*『虚実篇』までは開戦準備や組織作り、『軍争篇』からいよいよ各論に入ります。


 『孫子』は、全十三篇から成ります。


 その十三篇の名は、①『始計篇』、②『作戦篇』、③『謀攻篇』、④『形篇』、⑤『勢篇』、⑥『虚実篇』、⑦『軍争篇』、⑧『九変篇』、⑨『行軍篇』、⑩『地形篇』、⑪『九地篇』、⑫『火攻篇』、⑬『用間篇』となっています。

 以下、それぞれについて説明していきます。


①『始計篇』
 『始計篇』(単に『計篇』ともいいます)は、戦う前に心得ておくべきこと、準備しておくべきことを記しています。『計』は計画や計算の計ととらえてください。敵味方の戦力分析を冷静に行い、最後まで戦い抜くための計画立案を説いています。

 戦争ともなれば多大な戦費がかかり、犠牲者も多く出ます。無謀な戦いは国民を不幸にするだけです。『孫子』は、「無駄な戦争は避けるべきだ」と主張しています。


②『作戦篇』
 『作戦篇』は、始計篇のいわば方法論です。戦う前に、戦費がどれだけかかり、武具や兵員についての見通しの立て方を示しています。


③『謀攻篇』
 『謀攻篇』は、『謀』によって攻める、すなわち、武力ではなく「はかりごと」によって、敵を屈服させることの重要性を説いています。

 政治的な駆け引きや外交における攻勢、情報操作など、自国を有利な立場に導くやり方はいくつもあります。前述しましたが、『孫子』は、もっとも理想的な勝利の収め方を「戦わずして勝つ」こととしています。そのためには、「はかりごと」が大切だと説いています。もしも、戦いが避けられなくなったとしても、「はかりごと」によって戦いを有利に進めることができます。


④『形篇』
 『形篇』は、まず、戦う前に「どのような態勢を整えるべきか?」を指し示しています。形篇は『軍形篇』ともいわれるときもありますが、『形』はまさに軍隊が取る陣形を示します。しかし『孫子』では、具体的な陣形についての説明はなく、抽象的な論述に終始しています。精神論に偏っている印象も強く感じます。


⑤『勢篇』
 『勢篇』も抽象的な論述で終始していますが、戦いにおける軍の『勢い』について説明がなされています。スポーツでも、勝負ごとでも、『勢い』という不思議なパワーが勝負の行方を決定づけるケースが多々ありますが、勢篇の勢は、まさにこの『勢い』です。


⑥『虚実篇』
 『虚実篇』は、いかに敵の「虚を突くか」を示しています。『虚実』の『虚』はまさに「虚を突く」の虚です。具体的には、敵の隙であったり、守りが手薄であったりするところです。これに対して、『実』は、防御が固く、戦力が充実しているところです。


 ①『始計篇』、②『作戦篇』、③『謀攻篇』は、開戦前の準備について説明し、それに続く④『形篇』、⑤『勢篇』、⑥『虚実篇』は、軍隊や組織の態勢づくりについて説明しています。これはいわば総論にあたります。これに続く⑦『軍争篇』から、いよいよ各論に入っていきます。


⑦『軍争篇』
 『軍争篇』は、戦場において、「軍をどうやって動かすか?」「どういった戦術、戦法を採るか?」についての具体論えす。

 『軍争篇』は戦争を仕掛けて勝利をものにする方法、ここでは「相手の機先を制する」ことに重きが置かれています。「敵より先に戦いの場に到着し、準備万端で相手を迎え撃つ」というものです。


⑧『九変篇』
 『九変篇』は、「軍の指揮官がさまざまな状況の変化にどう対応するべきか?」について説いています。『九変』とは、“九種類の状況”です。


⑨『行軍篇』
 『行軍篇』は文字どおり、行軍に際しての注意点を挙げています。敵情視察の重要性も指摘しています。


⑩『地形篇』
 『地形篇』は、それぞれの地形において「どのような陣形をとるべきか?」、「どのような作戦行動に出るか?」を説明しています。


⑪『九地篇』
 『九地篇』は、九種類の土地環境で「おのおのが兵士たちの心理にどのように作用するか?」、「どういう影響を与えるか?」を踏まえた上での作戦行動を説いています。


⑫『火攻篇』
 『火攻篇』は、さらに具体的に勝利を呼び込むための策を説明しています。文字どおりの火攻めに加え、水攻めについても解説され、さらに後半では、戦後処理についても説明があります。


⑬『用間篇』
 『用間篇』の『用間』とは、間者(スパイ)の使い方、すなわち情報収集の具体的方法について触れています。