遠くしてこれに近きを示す

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現代訳

 たとえ遠くにいるときでも、敵には近くにいるように思わせ、遠く離れているときでも、近くにいるように思わせろ


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自分の勝負しやすい場所で戦う


*交渉には「ホーム・アドバンテージ効果」を活用する。

 「近くしてこれに遠きを示し、遠くしてこれに近きを示す」は、前回のブログの「脳なるもこれに不能を示し、用なるもこれに不用を示す」(能力があっても、無能に見せかける)に続く一文です。

 相手をコントロールするという孫子の本質を表した部分です。

 交渉ごとでの鉄則は、精神的に相手より優位に立つことです。そのため、あらゆるテクニックが使われます。

 まず、「交渉する場所」がポイントになります。自分のペースで交渉したいなら、断然、自分のテリトリーで行うことを心がけましょう。

 相手の家やオフィスより、自分の家やオフィス、また、よく利用する喫茶店などの方が落ち着いて、交渉のペースをつかみやすくなります。これは、相手の気分を高揚させ、本音を吐き出させたいときにも有効です。

 これを「ホーム・アドバンテージ効果」といい、気後れしやすいという人には、特にお勧めのやり方です。


*豪華な場所を選び自分の感光を見せつける。

 場所が心理面に与える影響は大きく、それを把握して相手をうまく操るということでは「非日常の空間」も使えます。

 例えば、豪華なホテルやレストランといった場所ですが、とくに相手を説得させたいときには有効です。これら豪華さ、優雅さは、自分の地位や権威を相手に「アピール」、あるいは「錯覚」させる場所なのです。

 これを心理用語で「栄光欲」といい、威光を見せつけることによって、相手をこちらのペースに巻き込むのです。



*状況によって衣服の色を使い分ける。

 視覚が精神面に与える影響も大きく、これをビジネスに役立てている人も沢山います。

 ある機械メーカーの営業マンである坂井さん(仮名)は、営業するシーンによってネクタイの色を使い分けているといいます。

 「ここいちばん、契約にこぎつけるといった大事な場面では、真っ赤なネクタイを締めます。赤は元気が出る色で、積極的なイメージを強くアピールできます。逆に、お詫びにいくときなどは、青やグレーといった落ち着いた色を選びます」

 「進出色」といわれる赤は、「近づいてくるように見える色」とされています。

 活気を呼ぶ色で、リーダーが部下たちを鼓舞するときに使える色です。積極的な心理を刺激したいときには、赤色系を多用するといいでしょう。

 「後退色」といわれる青は、赤とは逆に、心を鎮める効用を持ちます。

 赤と青の使い分け、まさに孫子が言う「近くにいるように思わせる」「遠くにいるように思わせる」ために役立ちます。