敵の情を知らざる者は、不仁(ふじん)の至(いた)りなり。

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現代訳

 十万もの軍隊を編成し、千里先の敵国に侵攻するとなると、民衆の負担や国家の支出は一日に千金ともなります。国の内外で大騒ぎとなり、物資輸送に駆り出された多くの民衆が輸送路で疲れ果て、農業に従事できなくなる者が七十万にも達します。

 このような苦しい状態で数年にもわたって睨み合った挙句、たった一日の戦いで勝敗が決してしまうのです。それなのに間諜(かんちょう=スパイ)に官位や俸禄や賞金を与えることを惜しんで、敵情を探ろうとしないのは、民衆の苦しみを無にしてしまいます。

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役立つ情報は意外なところに落ちている。

*女性はトイレで重要な情報交換をしている?


 孫子はスパイを使っての情報収集が戦いにとって大きな役割を果たすと強調しています。

 ビジネスでも、ライバル会社やマーケットの動向を探る情報収集は、最重要課題となります。

 女性向けファッション用品を扱うA社での話です。あるとき社長がトイレで小用をすませて手を洗っていると、女子トイレから女性たちの声が聞こえてきました。会話はオシャレや彼氏の話題など他愛もないものですが、社長は「そうか、若い女性はトイレで情報交換するのか……」と思いを巡らせます。

 すぐに女性アルバイトを雇い、女子トイレでの会話をメモさせました。こうして集めた井戸端ならぬ「トイレ会議」メモから若い女性たちの興味を探り、商品開発に大に役立てたのです。