必生(ひっせい)は虜(とりこ)

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現代訳

 生き延びることしか考えない者は捕虜にされる。


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保身ばかり考えるな!

*ときに“クビ”を賭けて勝負に出る。


 サラリーマンの中で、今の地位に安住でき、そこそこ出世するタイプは、小心者で、目立たないようにコツコツと陰で努力をするタイプだといいます。

 しかし、いつまでも上司の言いなりでいいわけがありません。ときには、自分の“クビ”を賭けてでも戦う姿勢を見せ、上司やトップに意見しなければならないときがあります。保身に走ってイエスマンに徹していては、本人のために会社のためにもなるわけがありません。

 会社にとっても、イエスマンばかりがトップの周りを固めているようでは、将来が危ういものとなってしまいます。


*大人しいほどいざというときに凄味がある。

 某企業の社長まで上り詰めた安藤章一さん(仮名)は、かつて、閑職で冷や飯を食らわされていた時期がありました。その安藤さんを救ったのが、当時のワンマン社長でした。そのワンマン社長の引き立てによって、閑職から出世街道に復帰し、人事部長に就いていたときのことです。

 ワンマン社長が「役員を総入れ替えする!」といい出したのです。あまりの無謀な人事に、安藤さんははじめて大恩のある社長に口答えします。

 「そんな無茶苦茶なことをなされたら、会社は潰れてしまいます!」

 はじめて口答えした安藤さんのその言葉に、社長は怒りを爆発させます。

 「いや、やる。俺の言うことが聞けないようなら、お前はクビだ!」

 「わかりました。仕方ありません。すぐに辞表を提出します」

 まさに、売り言葉に買い言葉です。しかし、ここは社長の方が折れ、後日、社長は安藤さんに詫びを入れます。「お前のような青二才が、俺楯突いたのははじめてだ。しかし、よくよく考えると、お前の言うことはもっともだったな」

 社長は安藤さんの意見を取り入れ、役員の総入れ替えを撤回します。

 安藤さんには私利私欲などまったくなく、ただただ会社のためを思っての意見具申だったので、ワンマン社長も安藤さんの意見を認めざるをえなかったのです。

 もしも、安藤さんが自らの保身のためにワンマン社長の言うがままになっていたなら、安藤さんはまさに孫子が言うところの“捕虜の身”だったことでしょう。

 会社は、役員の総入れ替えで滅茶苦茶になってしまったに違いありません。

 ここいちばんで去就を賭けて臨んだからこそ、社長としての今の安藤さんがいらっしゃるのだと思います。