人を致して人に致されず

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現代訳

 敵より先に職場に到着して、敵がやってくるのを待つようにすれば余裕ができるが、あとから戦場に到着して、先に有利な地を占めている敵を攻めるのは苦しくなる。

 だから、戦いに巧みな者は、主導権を握って敵を思うがままに動かし、決して相手の思いどおりに動かされたりしない。

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約束の時間より前に現地に赴く


*「遅刻」にはメリット・デメリットがある

 「敵より遅れて戦場に到着する」

 これをビジネス現場で置き終えると、打ち合わせや商談の約束の時間に遅れることを意味するでしょう。「遅刻はマナー違反だ」とだけ解釈すれば、待ち合わせ時間に遅れたことで、相手の貴重な時間を奪うという罪があります。

 しかし、ビジネスにおいてどれだけ大きなデメリットがあるのか、次の例からも伺い知ることができるでしょう。


*約束時間を守った側のメリット

 トップセールスとして何度も表彰されたことのある伊東智明さん(仮名)は、アポイント時間の30分から、遅くとも20分前には現場に到着するそうです。どこかで待ち合わせる場合には、必ず相手より先に訪れることを心がけています。

 これは、単に電車や車など交通機関の遅れによる遅刻を防ぐというだけでなく、早めに到着して、まずは心に余裕をもたせるのが大きな目的だといいます。先方の会社に訪問するときでも、早めに訪問し、現地のち各でぶらぶら時間を潰しながら、その雰囲気に慣れて気持ちを落ち着かせます。


*約束時間を破った側のデメリット

 確かに、待ち合わせ時間のギリギリに駆け込んでいては、精神的な余裕が失われ、商談や交渉も差し障りが出てきます。相手より遅れて到着したり、時間ギリギリどころか遅刻してしまったら、相手に負い目を感じて強気に出れず、交渉などの足を引っ張ることになりかねません。逆に、相手が約束の時間に遅れてくるのは大歓迎です。

 決して怒ったり不快な思いを顔に出したりしません。笑顔が出迎えるようにします。

 相手に負い目を感じさせ、交渉などでは有利に進めることができるからです。「でも、相手によっては遅刻しても、まったく負い目を感じないような人もいますよね?」と伊東さんにちょっと意地悪な質問をしてみました。

 「それでもいいんです。そのような不誠実な人とは、今後付き合っても決してプラスにはなりませんから、浅い付き合いに徹したり、場合によっては、関係を断ってしまえばいいんです」

 営業マンらしくにこやかな表情を見せていた伊東さんですが、その目が一瞬、冷たく光ったようでした。