上下の欲を同じうする

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現代訳

 勝利をつかむには、五つの心得がある。

 第一に、戦っていいときと、戦ってはいけないときがある。

 このことをわきまえている者が、勝利をものにすることができる。

 第二に、大軍の動かし方と、少数の兵力の使い方の違いを心得ておけば、勝つことができる。

 第三に、上に立つ者とそれに従う者が、共通の目的に向かって心を一つにすることができれば、勝つことができる。

 第四に、あらかじめしっかりとした準備を整え、油断している敵を待ち伏せすれば、勝つことができる。

 第五に、将軍が優秀で、なおかつ君主が信頼し、細かいことに口出ししなければ勝つことができる。

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勝負に勝つには、それなりの理由がある。


*「タイミング」と「組織編成」の重要性

 戦いに臨むに際して、孫子は5つの重要性を説いています。これは、ビジネスにもそのままあてはまります。

 第一の戦っていいときと戦いを避けるべきとき。これは「行動を起こすときのタイミング」の重要性を説いています。例えば、マーケットの状況が悪いときに、新商品を売り出すなど愚の骨頂。タイミングをうまく計って行動を起こすことです。

 第二の大軍の動かし方、小部隊の動かし方については「組織の編成」についての重要性説いています。

 小規模の会社なら、一人のリーダーが指揮権を握った上で、全員に意思伝達が可能です。

 しかし、何百、何千といった大きな組織となると、事情は変わってきます。トップ一人で全員を束ねることは困難です。そこで、大人数をいくつかの組織に分けて、各小組織にそれぞれリーダーを据えます。そして、トップから末端の兵士まで、意思伝達がスムーズに伝わるようにしなければなりません。「組織編成」の重要性がここにあります。

 

*「協調性」「用意周到」「現場主義」の重要性

 第三に、一つの目標に向かって「組織が一丸」となって邁進しているかどうか。

 リーダーから人心が離れれば、組織はあっという間にバラバラになってしまいます。上に立つ者と従う者の心が離反してしまっていては、組織がうまく機能するわけがありません。某損害保険会社の部署でのことです。ある重大なミスが何度か重なり、部署全体の社員が集まり、対処することになりました。

 夜遅くまで残業することは避けられず、夜9時を回った頃、途中経過を報告し合うミーティングが行われました。

 各自報告が終わった後、これからどうするか相談を始めようとしたときです。部のナンバー2である次長が、ぐちぐち言い訳じみたことを口に出し始めたのです。なぜ、このような事態になってしまったのか、説明を始めたわけですが、さも、自分には責任がないかのような言い方に、部下たちは一斉に白けます。

 「もう、いいかげんにしてくれ」

 と、心の中で大反発。夜10時をとうに過ぎ、みな疲れ果てて、集中力も途切れてイライラし始めています。部を取り仕切る部長がその空気を読んで、

 「××次長。その話は後にして、とりあえず、今は解決に向けて全力を尽くそう」

 と次長の発言を遮りますが、この次長の発言で、部署全体の士気はかなり下がってしまいました。これをきっかけに、その後、次長に対する部下たちの信頼感は薄くなったといいます。組織全体の士気を高め、目標に向かって力を集中させるには、リーダーの発言が大きくものを言います。 
 部下たちの心を一つにまとめあげるには、リーダーは難敵に対して、一歩もひるまない確固たる姿勢をもって臨むという姿勢アピールしなければなりません。部下たちを納得させた上で組織を動かすのが、最低の条件といえるでしょう。

 第四は、戦う前の「用意周到さ」の重要性を説いています。第五は「現場主義」の重要性です。現場で起こりうることに関して、よほどのことがない限り、現場のリーダーに判断を任せることです。最悪なのは、現場を知らないトップがあれこれ口を挟むこと。

 指揮権を与えておきながら、その指揮官を飛び越えてトップが現場に指示を出すのは、命令系統を乱し、現場は混乱します。さらに、現場の指揮官のモチベーションを大きく損なう結果となります。